まず、プレスするには箔を押す部分の絵柄がついた「版」が必要になります。版の存在は手にする人の目に触れることはありませんが、これがあってこそ形することができる、箔押しの要とも言える存在です。
#05
ROKKAKU Storyひと押しまでの道のりvol.3
〈長く地道な、最後のひと押し〉
「箔を押す」
たったそれだけで、箔押しは通常のインク印刷にはない凹凸や光沢によって紙の上を華やかにします。
しかし、“箔押し”と一口に言ってもそれが形になるまでには、デザイン、箔の選定、版の制作、プレス機の調整といくつもの工程があり、さまざまな思考や技術が随所に張り巡らされています。
箔の魅力を活かし、絵柄に一層の彩りを与える箔押しのプロセスとは。
きらびやかな商品に至るまでの、長く地道な工程をたどっていきましょう。
ー
デザインと箔が決まれば、あとはプレスするのみ。
とはいえ、ここからまた長く、細かな作業が待っています。
こだわり抜いたデザインと箔選びを最大限に活きた形にする、熟練の技の出番です。
Index
-
01
箔と紙をつなぐ要の版
-
02
絵柄に応じたプレス機たち
-
03
ミリ単位の位置合わせ
-
04
箔や紙質、気候に合わせた温度・圧力設定
-
05
COMMENT
箔と紙をつなぐ要の版
版には、絵柄の凹凸やテクスチャーが彫られており、箔押しされる部分がくっきりと浮き出ています。これを高温・高圧でプレスすることで、箔が紙に転写される仕組みです。
こうした版は、デザイナーが絵柄としての見栄えと技術的な実現可能性を両立させながらデータを作成して制作されます。デザインデータ上では問題がないことを確認してから版の制作へ取り掛かるものの、うまくいくかは実際に押してみるまではわかりません。
紙、箔、版が揃ったところで、いよいよプレスに取り掛かります。
絵柄に応じたプレス機たち
ROKKAKUでは、事務所内に箔押しを行う製造所を設備。同じ建物でデザインから製造まで行っているため、デザイナーと製造オペレーターが密にコミュニケーションを取りながらより高いクオリティを目指しています。
製造所では、手動や自動タイプなど複数台のプレス機が稼働しており、商品のサイズや加工の仕方によって使い分けています。
プレス機にもさまざまなタイプがありますが、熱と圧力でプレスする仕組みは共通です。ここから細かなセッティングへと移ります。
ミリ単位の位置合わせ
プレス機のセッティングで最初に行うのは、プレスする箇所の位置合わせ。0.1mm程度のズレでも絵柄の印象が変わってしまうため、かなり厳密に調整する必要があります。
細かい部分や版の種類が多かったり、箔や絵柄が重なる部分があるとズレが目立つため、その分設定にも時間を要します。絵柄をシンプルにすることでズレにくく押しやすくすることもできますが、細やかな表現こそROKKAKUの魅力のため、熟練の技による精細な位置合わせは欠かせません。
箔や紙質、気候に合わせた温度・圧力設定
位置が決まれば、いよいよプレスへ。と言いたいところですが、ここから最も重要な温度と圧力の調整に入ります。
箔押しは箔を高温・高圧でプレスすることで紙に転写する技術ですが、この「高温・高圧」というのは一定の数値が決まっているわけではなく、箔の種類や紙質、さらにはその日の湿度などの環境によっても変わります。
また、テクスチャー部分とベタ部分とで箔のつき具合が異なってくるため、圧力を強めたり温度を上げたりしながら全面にしっかり箔が乗るポイントを細かく探る必要があります。
温度は120度前後、圧力は自動機で5t、手動機で10〜30tが目安となり、かなりの温度と力によって精細な表現が作られます。
プレスする時間も、長すぎると裏写りしてしまい、短すぎると箔がかすれたりムラが出るため、0.1秒単位でしっかり箔が定着する加減をチューニングしていきます。
位置、温度、圧力、時間。あらゆる条件を考えながらそれぞれわずかな数値を調整し、最適な設定が決まればついにひと押しです。
重厚な音を立てて版が押され、紙を静かに抜き取れば箔押し完了。
当たり前のようにきれいに位置が合い、しっかりと箔がついていますが、デザインから数ヶ月を経てついに箔押しされたと考えると、一層の輝きを放って見えてきます。こうして出来上がった喜びとともに、箔押しのプロセスは終わりとなります。
COMMENT
最後に、要となる版のデザインとプレスを担当されているお二人からコメントをいただきました。
——プレスにおいて大切にしていることは何ですか?
「どうしても箔押しがうまくいかない時はデザインを調整することもありますが、デザインの意図と変わってしまうところもあるので、基本は限界まで突き詰めてなんとかできる方法がないか考えています。押してみないとわからないというのが前提としてあるので、毎回簡単にいかないことばかりですが、腕の見せ所でもあるのでやりがいがありますね」
—— 箔押しの魅力をお聞かせください。
「箔押しの位置がぴったり合った瞬間が一番気持ちがいいです。デザインや箔が決まったらあとはプレスするだけですが、位置がずれたり、温度や圧力の問題でかすれたりと、一回プレスするまでの調整に手間と時間がとてもかかるんです。妥協することもできますが、デザインからかけてきたこれまでの労力を考えるとやっぱり完璧を目指したい。ぴったり合わさるとこれだ!という美しさがあるので、こだわった分だけ美しさとして返ってくるところが箔押しの魅力だと思います」
デザイン、箔の選定、プレス。三つの記事にわたって、箔押しのプロセスを詳細にたどっていきました。
きらびやかな見た目の背景には、長く、地道で細かな工程の積み重ねがあった箔押し。たったのひと押しですが、その背景を思い浮かべて出来上がったものを目にすると、きっと感動もひとしおでしょう。ぜひ、ROKKAKUの商品でその輝きを体験してみてください。