箔押しの絵柄を検討する「デザイン」。箔押しを施すことを想定したデザインには、通常の印刷物における絵柄のデザインにはない前提があります。
それは、箔押しのデザインにあたって、「箔押しのみで絵柄を表現するか」「絵柄の一部に箔押しを施すか」。つまり、箔押しを主役とするのか、引き立て役とするのかによって、箔の魅せ方も大きく異なるため、そのいずれかの前提に立って絵柄のデザインを検討していきます。
#03
ROKKAKU Storyひと押しまでの道のりvol.1
〈箔押しならではデザイン〉
「箔を押す」
たったそれだけで、箔押しは通常のインク印刷にはない凹凸や光沢によって紙の上を華やかにします。
しかし、“箔押し”と一口に言ってもそれが形になるまでには、デザイン、箔の選定、版の制作、プレス機の調整といくつもの工程があり、さまざまな思考や技術が随所に張り巡らされています。
箔の魅力を活かし、絵柄に一層の彩りを与える箔押しのプロセスとは。
きらびやかな商品に至るまでの、長く地道な工程をたどっていきましょう。
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最初の工程となるのは、箔押しの絵柄を決定するデザインです。
箔押しを活かす、箔押しだからできるデザインとはどのように作られるのでしょうか。
Index
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01
箔のみで絵柄を表現するか、絵柄の一部に箔を施すか
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02
箔押しで映えるモチーフ選び
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03
限られた色数の中で、ギミックや余白を駆使する
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04
じっくり見たくなる細部へのこだわり
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05
平面に奥行きや質感をもたらす
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06
COMMENT
箔のみで絵柄を表現するか、絵柄の一部に箔を施すか
箔押しで映えるモチーフ選び
デザインする上で、はじめに考えることは「何を描くか」。
どんな絵柄でも箔押しによって魅力を増すことができますが、箔押しされているからこそ一層魅力的に見えるモチーフであることが大きな軸となります。
箔押しの定番モチーフには伝統柄や縁起物などがありますが、ROKKAKUでは、敢えて日常的なものや風景もモチーフに採用。例えば、ご褒美のスイーツや四季折々の風景など、気持ちを豊かにするものをモチーフとすることで、普段目にしているものにも美しさを感じるようなデザインをしています。
限られた色数の中で、ギミックや余白を駆使する
モチーフが決定したら、どのように箔押しを活かした絵柄に落とし込むか細部の検討へ。箔を活かすと同時に箔の制約も意識してデザインを進めます。
その制約とは、箔の色数です。箔を多用した表現は技術的にも困難なため、通常使用できる箔の数は一〜三色が目安。それを前提にデザインを進めていかなければなりませんが、表現の幅を広げるテクニックとして「テクスチャー」があります。ドットや網掛けといった表現を入れることで、一色の箔にも濃淡ができ、立体感や質感を出すことが可能に。制約があるからこその工夫によって、細かな表現がデザインに散りばめられていきます。
金色の薄い部分は、細かいテクスチャーを入れて表現されている。
さらに、箔押しを際立たせる上で、「余白」も重要な要素です。箔をそのままベタで押す部分、テクスチャーを入れた部分、そして箔を押さない抜きの部分も絵柄の一部として考えます。
例えば以下の写真では、使用している箔は紫と金の二色のみですが、ケーキの上に乗ったクリームや食器の部分は箔を抜くことで紙そのものの色で表現。このように紙も表現の一部としながら、絵柄を作り上げる点も箔押しの特徴と言えるでしょう。
じっくり見たくなる細部へのこだわり
細かな抜きやテクスチャーを駆使しながら、絵柄を美しくするとともに箔押しの魅力を最大限にする見え方を調整していきます。ひとつのモチーフにしても、パフェに添えるお菓子はモナカとウエハースどちらの質感がより良いか、ショートケーキのクリームの絞り方はどんな形が箔押しの際見栄えがいいか、そうした細部も複数パターンを作成して検証。
また、絵柄の細部にユーモアを取り入れることで、絵をじっくり見ると箔の繊細さや変わった色の表現を楽しめる工夫を施しています。
平面に奥行きや質感をもたらす
他にも、「絵柄の一部に箔押しを施す」場合におけるデザインのポイントがあります。この場合はベースとなる絵柄があるため、絵柄の魅力を際立たせる箔押しの表現を検討していきます。
方法としては、絵柄のラインを箔で縁取ったり、箔をポイント的に乗せたりとささやかですが、細やかなきらめきや凹凸を添えるだけでも平面の絵が立体的に。絵柄の世界観を損なわないよう箔の色数や面積は抑えつつも、絵柄に奥行きをもたらすことができるのは箔押しならではの表現と言えます。
このように大胆な華やかさがありつつ、ささやかな精細さも表現の魅力である箔押し。
箔押しは主役/引き立て役のどちらの場合でも、手に取った際に一層惹きつける力があります。言わば、そうした箔押しの力を最大限に活かすことがデザインの役目です。
線の太さ、テクスチャーの細かさ、箔の面積など細かな選択まで気を抜くことができませんが、考え抜いたデザインへの熱意が、箔の選定、プレス作業へと受け継がれていきます。
COMMENT
最後に、細やかなデザインに日々取り組まれているデザイナーのみなさんからコメントをいただきました。
——箔押しのデザインにおいて大切にしていることは何ですか?
「箔押しは質感表現が大きな魅力になるので、写真など資料を集めて、詳細に参考にしながらデザインを起こしています。例えばスイーツの場合、ソフトクリームのねじれをどう立体的に表現するか、ドーナツのデコレーションはどういった模様が最も箔押しで映えるのか、実物と照らしながら考えているんです。箔押しで表現できるギリギリのところを攻めつつ、できる限り豊かに質感や手触りが感じられるようバランスを取っています」
——デザイナーとして喜びを感じるのはどんな時ですか?
「箔押しの表現は無数にあるので、デザインするたびに常に新しいことに挑戦している感覚があります。経験則を活かしつつもやったことのない表現にチャレンジできるので、デザイナーとしては楽しいですね。
じっくり見ないと気づかないような細かいギミックも多いのですが、そこにこだわったかどうかで最終的な見え方も変わってくるので、妥協せずに作り上げたものを目にするとやっぱり嬉しいです」
——箔のデザインの魅力をお聞かせください。
「箔はそれ自体の美しさはもちろん、絵柄に添えることで発揮される美しさもあります。主役にもなれるし、そっと華を添える存在にもなれることが魅力だと思います。その多面性があるからこそデザインの幅を広げてくれますし、まだまだ挑戦しがいがあると思っています」